耐力壁の実験的研究 2011年〜

木造建築の耐力壁

耐力壁:地震や強風時に建物に加わる力に抵抗する主な壁

耐震性能を考えるとき、地震力等に対して抵抗する耐力壁は、変形しにくい性質である剛性だけでなく、わずかに変形しただけで破壊してしまわない性能が求められます。
硝子を例に挙げると分かりやすいかもしれません。硝子に限界を超える力を加えたとき、硝子は一瞬にして破壊し元の形をとどめません。一瞬で破壊してしまうような脆い性質をもつ材料を耐力壁に用いると、限界を超える力が加わったとき、支え棒が外れるように一気に破壊してしまいます。このような壊れ方は、建物が即座に倒壊することにつながるため避けなければなりません。

木の力学的性質:木の壊れ方

木造の耐力壁を設計しようとするとき、木の力学的性質を知ることが大切になります。木が破壊するときのモードの多くは、残念ながら脆く壊れます。
例えば、圧縮力が働いている筋かいは、限界を超えると座屈破壊します(くの字のように折れる)。このとき、じわじわと壊れず一度に壊れ(耐力が落ち)ます。

これとは反対に、変形が大きくなっても壊れにくいものの一つが、伝統建築(神社・寺院建築)などにも用いられている貫などがあります。しかし貫構造は、力が加わったときの初期剛性が低く、変形が大きいという欠点があります。

断熱による壁内結露の問題

2000年頃の話しですが、高断熱化が進むときの問題として外壁内部の結露が問題提起され、一部の建築会社が、外断熱(木造建築において正確には外張り断熱)を木造建築の壁内結露の解決法として、差別化し訴求していた時代でした。分かりにくい言葉ですが、外張り断熱により熱的境界面を外壁の屋外側に移動することで壁内結露を解決する考えです。この先に諸問題がありますがここでは省略します。
耐力壁として合板などを耐力面材に用いる場合、壁内結露の問題を避けることが出来ません。

後年には、木造軸組建築において外張り断熱だけでは断熱性能が十分とはいえないこと、外張り断熱材の厚みを増したとき外壁材を木造軸組に固定する問題点などから、2021年現在では、充てん断熱+付加外張り断熱が高断熱の最適解の一つになっています。なお、ここ横浜市においては、外壁は充てん断熱のみ(外張り断熱無し)でも一定の高い断熱性能が得られ、設計条件次第では充てん断熱のみで十分といえます。ただし一定の気密性能(C値)が求められます。

耐力壁に話しは戻り、変形しにくくて脆く壊れない(剛性と靱性が高い)木造の耐力壁を追求するだけで未知の領域があるのに、ここに壁内結露という水蒸気の問題が加わり、非定常結露計算まで考えると暗中模索ともいえる課題となりました。

本当に強い耐力壁は何か

耐震性能と壁内結露の問題を補完する耐力壁が理想といえますが、耐力壁に用いる「耐力面材」等を販売するメーカーの言葉、水蒸気を通しやすく耐震性能も高いということ、などの性能に確信が持てませんでした。( 耐力面材をGoogle検索

これらがきっかけで、今からちょうど10年前の2011年に大学院に社会人入学し、耐力壁を研究すると同時に建築を学び直すことになりました。木質構造物の設計や構法開発等を行う研究室に入学すること、および教授らの提言により、耐力壁のみに研究テーマをしぼることになりました。研究するための学びをして初めて分かったこと、それは知らないことがたくさん存在することでした。
そして入学まであと1ヶ月を切ったとき東日本大震災が発生し、大学院入学後は、例年と少し異なるキャンパス生活となりました。